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『島津義弘の賭け』(著/山本博文)、そして島津家は戦国時代を生き残った

島津義弘(しまづよしひろ)を知るにはオススメの一冊だ! 『島津義弘の賭け』は、16世紀末から17世紀初めにかけての島津家の事情を丁寧に掘り起こす。豊臣政権下で苦闘し、関ケ原の戦いから生還し、粘り強く交渉して本領安堵を勝ち取る。お家存亡の危機の連続を、島津家がなんとか乗り越えていく過程がつづられている。

 

 

著者の山本博文(やまもとひろふみ)氏は東京大学史料編纂所の教授として長年にわたって歴史研究に携わってきた人物だ。一般向け書籍もかなりの数を執筆していて、ネットで検索してみると面白そうなタイトルの著作がぞろぞろと出てくる。

『島津義弘の賭け』は1997年に刊行。今となってはだいぶ昔の本になる。さらに2001年に文庫化。手頃な価格で読めるのはうれしい。

 

本書は内容が濃く、それでいて読みやすい。島津義弘に関する本はいろいろあるが、多くがこの『島津義弘の賭け』を参考にしていると思われる。

 

 

豊富な史料から場面を切り取る

東京大学史料編纂所は、国宝1件・重要文化財19件をはじめとする膨大な貴重史料を収蔵している。その国宝というのが『島津家文書(しまづけもんじょ)』である。

これは島津家重代相伝の文書群。平安時代末期の12世紀末から、明治時代初期の19世紀末に至るまで、約700年間の史料が伝えられている。『島津家文書』(848巻、752帖、2629冊、2幅、4908通、160鋪、207枚)は2002年に国宝に指定されている。また、『薩藩旧記雑録』(現本)や『上井覚兼日記』(自筆)など、一部の史料は独立して重要文化財に指定されている。

島津家に関する史料は豊富なのである。その時代を生きた当事者によって書かれたもの(書状など)、その当時や近い時代の人物による覚書や編纂物などがかなり残っている。関わった人物が持っていた思い、歴史的な事象の舞台裏までもが見えるのである。

『島津義弘の賭け』はこれらの史料にもとづく。確かな情報を重ね合わせて分析している。だから、そこに人間味が感じられ、臨場感もあるように思う。

 

 

島津義弘の苦悩

島津義弘(しまづよしひろ)というと、とにかく猛将のイメージが強い。戦場での活躍が語られがちで、とくに慶長5年(1600年)の関ヶ原の戦いの撤退戦はよく知られている。だが、本書ではちょっと違った印象を受ける。

島津家当主は島津義久(よしひさ、義弘の兄)であるが、豊臣政権とのやりとりは弟の島津義弘が担当した。島津義久は中央政権にあまり積極的に従おうとはしない。国許の国老衆も同様である。また、領内では豊臣政権のやり方に対しての反発もある。

文禄元年(1592年)には朝鮮出征を命じられるも兵がなかなか揃わず、船や物資の用意にも苦労し、大幅に遅参するという大失態をおかす。さらには、島津家配下の梅北国兼(うめきたくにかね)が出陣の途上で反乱を起こすという事件まで起こってしまう。


「なんで命令が実行されないんだ!」とせっつかれるが、国許では兄も国老もなかなか動かず、家臣も言うことを聞いてくれない。島津義弘は「板挟みになって思い悩む中間管理職」という感じであった。

豊臣政権からの印象は悪く、島津家は取り潰しされかねないギリギリの状況が続く。

 

島津の退き口

関ヶ原の戦いでは、島津義弘は西軍として参加する。徳川家康とは敵対することとなった。手勢は少なく、1000~1500ほどだったとされている。

どうして西軍についたのか、兵が少ないのはなぜか、そのあたりの事情について『島津義弘の賭け』では知ることができる。そして、豊富な史料群から場面を切り取って、戦場での島津勢の様子が再現されている。

『薩藩旧記雑録』に収められている筆者未詳の「覚書」によれば、義弘は、
「薩摩勢をせめて五千連れてきていいれば、今日の合戦は勝つだろうに(薩州勢五千召列候はば、今日の合戦には勝つものを)」
 と、二、三度いったという。無念な心情をよく表している。たしかに義弘に五千の兵を与えて、関ヶ原で縦横に活躍させてみたかった気がする。 (『島津義弘の賭け』より)


戦いは半日ほどで態勢が決する。西軍は総崩れとなった。島津勢は戦場のまっただなかに孤立する。兵は200~300ほどに減っていたという。ここから、大胆な退却戦が始まる。退路に選択したのは前方だった。壮絶な戦いの末に戦場を離脱した。その後、大坂城で人質(島津義弘の妻など)を救出して海路で帰国する。

島津義弘が帰国したあと、島津家は徳川家康と粘り強く交渉する。戦後処理の過程もなかなかにおもしろい。

 

島津義弘の賭け (中公文庫)

 

 

こちらの本は新しめ(2021年発刊)。あわせて読むといい感じだ。

rekishikomugae.net

 

 

こっちは関ヶ原の戦いの「島津の退き口」に迫った一冊。

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