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『中先代の乱』(著/鈴木由美)、北条時行が鎌倉を奪還する

カオスすぎる南北朝争乱への序章

南北朝争乱期というのは一筋縄ではいかない。いろんな要素が複雑怪奇に絡み合い、なにがなんだかわからないのである。ややこしいこともあってなのか、学校の教科書なんかでもさらっと流される感じである。歴史好きにとっても、戦国時代や幕末期のように注目される時代ではない。とにかく「なんか面倒くさそうな時代だ」と敬遠されがちだ(実際に、面倒くさい)。でも、14世紀の歴史を見ていくと、とてもとても興味深い。登場人物もやたらと個性的で、手を組んだり、反目したり、裏切ったり、と「何でもあり」の様相である。面白い! と個人的には思う。

元弘3年・正慶2年(1333年)に鎌倉幕府が滅亡。その後の展開はおそろしく混沌としたものに。幕府が滅亡し、建武政権が発足し、建武政権が打倒され、足利尊氏の武家政権ができ、……南北朝争乱へ突入するのが延元元年・建武3年(1336年)である。3年とちょっとのあいだに状況が目まぐるしく変わる。そして南北朝争乱はずるずるに長引き、ひとまずの決着を見るのは明徳3年・元中9年(1392年)のことであった(明徳の和約)。

で、「中先代の乱(なかせんだいのらん)」というのは、その一連の混乱の中で起こった出来事のひとつである。で、これを掘り下げた本があったので読んでみた。

 

 

鎌倉幕府滅亡から2年後の建武2年(1335年)7月(日付は旧暦、以下同)、信濃国(現在の長野県)で反乱軍が挙兵する。得宗家(北条氏惣領家)の遺児である北条時行(ほうじょうときゆき、ときつら)を奉じてのものだった。

北条時行は、最後の得宗である北条高時(たかとき)の次男。幕府滅亡の際に鎌倉を脱出し、信濃国の諏訪頼重(すわよりしげ)のもとに匿われていた。生年は不詳だが、兄の北条邦時(くにとき)は正中2年(1325年)の生まれであり、挙兵の時点で北条時行は5歳~8歳くらいだろうか。

反乱軍は同調者を糾合して勢力を増して関東を席巻する。北条氏はまだまだ求心力を持っていたのである。そして、ついには鎌倉を奪還した。しかし、鎌倉制圧はわずか20日ほどのことだった。京からやってきた足利尊氏の征討軍に敗れたのである。

その後、足利尊氏は鎌倉から京には戻らず、建武政権に対して謀反を起こす。ここから大規模な内乱がはじまることになる。中先代の乱(なかせんだいのらん)は足利尊氏を動かし、南北朝争乱のきっかけを作ったのだ。

ちなみに、「中先代」というのは北条時行を指す。鎌倉幕府の北条氏を「先代」とし、室町幕府の足利氏を「当代」とし、その間にあった者を「中先代」としたものである。

反乱軍は壊滅するが、北条時行は逃れて潜伏する。そして、後醍醐天皇方の南朝に帰順し、足利尊氏(幕府・北朝方)と戦いを続ける。青年となった北条時行は転戦し、再び鎌倉を奪還するなど活躍している。そして、戦いに敗れてもうまく逃げて、何度も戦いを挑んでくるのである。

この時代のキャラは濃い連中だらけだ。列挙していくと、足利尊氏は日本史上で最強クラスの武将。後醍醐天皇はとんでもなく諦めが悪い。ほかにも先代の遺志を継いで奮闘する後村上天皇とか、九州を席捲した菊池武光(きくちたけみつ)とか、多士済々である。そんな中にあって、北条時行の存在感もキラリと光る。

本書は「北条家とは?」や「反乱の背景は?」だったり、そして「北条時行の生き様は?」というところを丁寧に掘り下げている一冊だ。

 

北条時行を主人公にした少年漫画がある。『逃げ上手の若君』(作/松井優征)だ。こんなマニアックな人物をよく題材にしようと思ったものである。作者は『暗殺教室』『魔人探偵脳噛ネウロ』などを手掛けたヒットメーカーだ。気になったので、単行本を読んでみた。史実と虚構を織り交ぜて、面白い感じに仕上げられている。

 

 

南北朝争乱期については、こちらの記事にて。

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