田んぼが広がっている。ひと夏を越えて、稲が長く伸びている。そんな風景をタノカンサァ(田の神)が見守る。彩色されて、赤色がよく目立つ。
場所は鹿児島県薩摩川内市祁答院町下手の菊地田(きくちだ)というところだ。
タノカンサァ(田の神)は、鹿児島県や宮崎県のあちこちで見られる。田の神像は島津氏領内で17世紀頃から盛んに造られるようになった。
タノカンサァ(田の神)の詳細はこちらの記事にて
ふくよかな姿
Googleの地図で検索すると「菊地田の田の神」というのがある。鹿児島県道333号から農道に入るとすぐに見つかった。
近づくとけっこう大きい。そして、ふくよかな体系である。顔や腹を白く。衣装は赤く彩色されている。右手にはメシゲ(しゃもじ)を持つ。左手は欠けてわからず。頭にはシキ(米を蒸す道具)をかぶる。いわゆる田の神舞(たのかんめ)の姿である。
描き込まれた表情は、なんともユーモラスな雰囲気。顔の下地はのっぺりとしている。風化が進んだためのが、あるいは初めから描くことを前提としているのかもしれない。
紀年銘がある。寛政3年(1791年)に造られたものだ。
横から見ると、厚みがけっこうある。
後ろ姿。タノカンサァ(田の神)が見ている風景はだだっ広い。
菊地田のある祁答院(けどういん)地域は、タノカンサァ(田の神)が多い。そして、彩色されているものもよく見かける。
タノカンサァ(田の神)は、彩色されるのが本来のあり方らしい。田の神講(たのかんこ)などの行事で、化粧直しされるのだという。この風習は廃れてしまったところも少なくない。あちこちでタノカンサァを見ていくと、彩色のあとが見られる像(かつて彩色していた形跡のある像)も多いのだ。
菊地田のタノカンサァは、きれいに色が塗られている。最近になって彩色されたものだろう。地域で大切にされていることがうかがえる。
菊地田にもう一体
「菊地田の田の神」のある場所から、西に500mほどの場所にタノカンサァ(田の神)がもう一体いる。こちらも農道の脇で田園風景を見守る。
東のふとっちょタノカンサァと比べると、やや小さめ。造形は簡素だが、こちらも色彩は鮮やかである。製作時期はわからず。
右手にはメシゲ(シャモジ)を持つ。左手はお椀かな? 像の前には藁ツトが供えてあった。
<参考資料>
『薩摩のタノカンサア』
著/寺師三千夫 発行/鹿児島放送文化研究会 1967年
『田の神サァ ガイドブック』
著/八木幸夫 発行/南方新社 2022年
ほか