日本国内の物事を深く理解するためのヒントが、『古事記』にはたくさん詰まっている。
例えば、神社へお詣りすると、そこには神様が祭られている。「どんな神様なんだろう?」と思う。また、神話が絡んだ史跡であったり、地名であったり、といったものにも出くわす。そのあたりを紐解くための資料として、『古事記』はすごく重宝するのだ。
『古事記』については、たくさんの書籍が出版されているが、岩波文庫のコレがいいなと個人的には思う。初版は1963年。古い本ではあるけれど。
『古事記』(岩波文庫)
校注/倉野憲司 発行/岩波書店
『古事記』とは?
「ふることふみ」「ふることぶみ」、あるいは「こじき」と読む。音読みの「こじき」が一般的だろうか。ただ、『古事記』が正式名称であるかどうかは、よくわかっていない。序文の中に「古事記」を書名としたことは明記されていない。「古事記」としたのは、後世になってからの可能性もあるんだとか。
『古事記』は「上巻(上つ巻)」「中巻(中つ巻)」「下巻(下つ巻)」からなる。
「上巻」は天地創造から始まる神話について、「中巻」は神倭伊波禮毘古命(カムヤマトイワレビコノミコト、神武天皇)から品陀和氣命(ホムダワケノミコト、応神天皇)まで、「下巻」は大雀命(オオサザキノミコト、仁徳天皇)から豊御食炊屋比売命(トヨミケカシギヤヒメノミコト、推古天皇)まで。それぞれに記されている。
序文によると、完成は和銅5年(712年)。編纂事業は天武天皇の命令で始まったという。
典拠とされたのは『帝紀』と『本辞』。『古事記』や『日本書紀』以前に編纂された歴史書で、いずれも現存していない。
『帝紀』は、『帝皇日継』『先記』とも。歴代の天皇の系譜が記されたものであるという。
『本辞』は、『先代旧辞』『旧辞』とも。神話や伝説、歌物語が記されていたという。
この『帝紀』と『本辞』には虚偽が多かったことから、これを正そう、となったのだという。そこで稗田阿礼(稗田阿禮、ひえだのあれ)に命じて「誦習(誦み習わし)」させた。
天武天皇の崩御により事業は中断されたが、和銅4年に持統天皇が太安万侶(太安麻呂、おおのやすまろ)に詔を出して再開。稗田阿礼の誦習をもとに、翌年に完成したという。
『古事記』(岩波文庫)のいいところ
原文は漢文である。一部には万葉仮名もある。とくに歌については、音を正確に伝える意図で万葉仮名で記されている。
『古事記』(岩波文庫)は大まかには二部構成になっている。「訓み下し文(読み下しし文)」と「漢文」である。現代語訳はない。
「訓み下し文」はとても読みやすい。原文の雰囲気をしっかりと残しながら、読んでいて情報がすっと入ってくる印象だ。ここには丁寧な脚注もついている。脚注は簡素にして、情報がしっかり詰まっている。
巻末には「歌謡全句索引」がある。これも便利だ。
読んでいくと、言葉の響きとリズムが素晴らしい。そこが『古事記』の魅力でもある。だから、原文に近い形で接したいな、と。そういうものを求めている人には、岩波文庫の『古事記』はいい本だと思う。
とはいうものの、『古事記』を知る一冊目としてはちょっと難しいかも。ほかで知識を入れてからこの本を手に取ると『古事記』をより深く味わえる、というところだろうか。
『古事記』に関する書籍はたくさん出ている。現代語訳もあるし、解説系のものもある。入門用にはやはりこれらが向く。こういった書籍と併用するといい感じ。現代語訳で興味を持った人の2冊目にも、こちらの本はオススメだ。
<参考資料>
『古事記』(岩波文庫)
校注/倉野憲司 発行/岩波書店 1963年