ムカシノコト、ホリコムヨ。鹿児島の歴史とか。

おもに南九州の歴史を掘りこみます。薩摩と大隅と、たまに日向も。

『島津氏 鎌倉時代から続く名門のしたたかな戦略』、なんだかんだで700年

島津(しまづ)氏は12世紀末に惟宗忠久(これむねのただひさ)が南九州に所領を得て、その歴史がはじまる。日向国・大隅国・薩摩国にまたがる島津荘(しまづのしょう)を領したことから「島津(しまづ)」を名乗りとした。また、三ヶ国の守護職にも任じられる。

初代の島津忠久(惟宗忠久)から29代当主の島津忠義(ただよし)まで、じつに約700年間にわたって南九州を治めた。

 

こんな本が出た。読んでみた。

 

『島津氏 鎌倉時代から続く名門のしたたかな戦略』
著/新名一仁・徳永和喜

 

700年の歴史が「これ一冊でわかる」
専門家による「島津氏」通史の決定版

と、帯にはある。

 

本書は、新名一仁(にいなかずひと)氏と徳永和喜(とくながかずよし)の共著による。物凄く分厚いわけではないけれど、ここに700年分の歴史が詰め込まれている。

 

新名氏は中世島津氏の第一人者とも言える人物だ。個人的には、新名氏の著作にはたいへんお世話になっている。島津氏の中世史は抗争続きで、とてもとてもややこしい。そこのところをわかりやすく解説してくれる。

徳永氏は、2024年時点では鹿児島市立西郷南洲顕彰館の館長を務める。鹿児島史談会の会長でもある。島津氏の外交や交易に関する著作が多い。

 

本書は「鎌倉時代から続く名門のしたたかな戦略」とあるように、どちらかという政治・外交を中心に書かれている。章立ては次のとおり。

第一章 島津忠久の治世
第二章 島津貞久・氏久の治世
第三章 島津元久・久豊の治世
第四章 島津忠国・立久の治世
第五章 島津忠良・貴久の治世
第六章 島津義久・義弘の治世
第七章 島津家久の治世
第八章 島津光久の治世
第九章 島津重豪の治世
第十章 島津斉彬の治世
第十一章 島津久光の治世

たぶん、中世(第六章まで)は新名氏が、近世(第七章以降)は徳永氏が担当していると思われる。

 

南北朝争乱期から戦国時代にかけて(14世紀~16世紀)、島津氏はずっと戦乱の中にある。一族どうしが争い、守護職に任じられる惣領家が交代することもあった。

権力者に抗うこともしばしば。島津氏久(うじひさ)・島津元久(もとひさ)は九州探題の今川貞世(いまがわさだよ、今川了俊。りょうしゅん)と対立し、南朝方について幕府と敵対関係となる。島津義久(よしひさ)は豊臣秀吉と対決して敗れる。関ヶ原の戦いにおいては、島津義弘(よしひろ)が反徳川方につく。取り潰されてもおかしくないような状況がたびたびありながら、外交をうまいことこなし、なんだかんだで続いていったのである。

また、南九州は南海へ開けた土地である。外国船が入ってくる南の玄関口である。海外とつながる島津氏、交易に力を入れた島津氏、という側面も歴史に大きくからんでくるのである。

中世のついては要点を押さえつつ、コンパクトにまとまられている印象だ。

 

 

近世においては、島津家久(いえひさ、初代薩摩藩主)による藩の基礎固め、鹿児島城および城下の整備などが詳しく記される。また、交易関係はかなり踏み込んだ感じ。朱印船貿易から幕府公認の琉球口貿易への変遷だったり、密貿易のことだったり。ほかにも、幕府と薩摩藩の関わり、調所広郷の藩政改革、幕末のニセ金づくりなどについても。いずれも、なかなかに興味深い。

 

近世の部分は、徳永氏の研究分野が中心となっているような感じ。ただ、その一方で、けっこう重要な出来事が触れられていないようにも思えた。

例えば、3代~7代の薩摩藩主(20代~24代当主)はすっ飛ばされている。そこは島津綱貴(つなたか)・島津吉貴(よしたか)・島津継豊(つぐとよ)・島津宗信(むねのぶ)・島津重年(しげとし)の時代にあたる。

この頃の幕府との関わり方や、島津氏の一門家の創設(垂水家に加えて加治木家・重富家・今和泉家)、宝暦治水事件などについても読みたかったな、と個人的には思う。

 

島津氏 鎌倉時代から続く名門のしたたかな戦略 (PHP新書)

 

 

新名一仁氏の著作について、記事をいくつか

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島津氏の戦国時代に関する本は、こちらの記事でも。

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