1980年代後半、家庭用ゲームではRPG(ロールプレイングゲーム)が人気ジャンルになっていた。そんな中で、ファミリーコンピュータ(ファミコン)向けに『真田十勇士』なる作品も発売された。
真田幸村(真田信繁)と10人の部下たちが徳川家康の打倒を目指す。シブすぎる設定に、キャラクターの使い分けをはじめとするゲームシステムがよくかみ合っていた。面白いゲームだった。
『真田十勇士』
ファミリーコンピュータ/コトブキシステム(ケムコ)/1988年6月27日発売
ケムコのこと
発売元はコトブキシステム。ゲームブランドの「KEMCO(ケムコ)」のほうが印象に残っている人も多いんじゃないだろうか。
広島県にある会社で、1984年に創業。海外作品の日本向け移植をけっこう手掛けていた。その中には、1986年のファミコン版『スパイvsスパイ』など「名作」と呼ばれるものもある。「迷作」と呼ばれるようなゲームもあるにはあるが、全体的には手堅い作りのゲームが多かったように思う。
コトブキシステムのゲーム事業と「ケムコ」ブランドは、現在はコトブキソリューションが引き継いでいる。ちなみにコトブキソリューションは、コトブキシステムからの分社化により設立された会社である。
「真田十勇士」とは
江戸時代に「真田もの」と呼ばれる講談が人気を博した。真田幸村(真田信繁)とその部下たちの活躍が語られていた。
その後、講談をベースに発展。明治・大正の頃に多くの関連作品が出版され、その中で猿飛佐助や霧隠才蔵といったキャラクターも生まれる。真田幸村の部下が増え、ひっくるめて「真田十勇士」と呼ばれるようになっていく。
「真田十勇士」は、小説・映画・テレビドラマ・マンガなど幅広い分野でモチーフとされている。また、これをヒントにした物語設定・キャラクター設定もけっこうある。だから、それなりに認識している人も多いかと。一般的に、そこそこ知られた存在なんじゃないかと思われる。
そして、真田幸村(真田信繁)のイメージは、この「真田十勇士」に引っ張られまくっている感もある。あくまでも物語であり、史実とは違う。
独特のゲームシステムに
ファミコンではRPGが人気のジャンルとなる。そのきっかけとなったのが、1986年発売の『ドラゴンクエスト』のヒットだ。
当時、RPGはちょっとマニアックなイメージがあった。『ドラゴンクエスト』は、RPGをすごくわかりやすく遊びやすく提案したゲームだった。物語を楽しむ、謎を解く、プレイを積み重ねてクリアーに近づく、といった要素は一気に受け入れられた。遊ぶ側もRPGを求めるし、作る側もそれに応えようとする。そして『ドラゴンクエスト』を雛型にしたようなゲームがたくさん発売されるようになった。
メーカー各社は、個性をつけて他作品との差別化をはかろうと工夫する。『真田十勇士』も「ほかにはない要素をガンガン盛り込みまくるぞ!」という意図がよく見える。
「真田十勇士」という和風の世界観を設定したことで、まずは差別化がはかれているかな、と。さらに独特の要素がこれでもかと盛り込まれている。なかなかに挑戦的なつくりになっている。
ゲームシステムの特徴を列挙してみる。
◆レベルの概念がない。HP(ヒットポイント)にあたるのは家来の数(兵力)。家来が多いほど攻撃力も上がる。
◆兵種には「侍」「甲賀忍者」「伊賀忍者」「根来忍者」「くの一」「僧兵」「槍部隊」「剣士」「鉄砲隊」「浪人」「農民」「盗賊」がある。兵種ごとに相性があり、得意・苦手の影響は大きい。苦手な兵種にはほとんど攻撃の効果がでなかったりもする。
◆真田幸村と十勇士は、それぞれ率いる兵種が決まっている。戦闘時には相性を考慮しつつ戦うキャラクターを選ぶ。
◆フィールドで敵として出現する野武士を説得して仲間に引き入れる。そうすることで家来を増やしていく。敵を説得するときにもキャラクターごとの相性がある。
◆武器を与えることで、家来を違う兵種に変えることもできる。
◆宿屋にあたるものはない。HP(家来の数)は説得で補充。
◆軍の維持には兵糧が必要。家来に兵糧を与えて忠誠度を上げると、攻撃力も上がる。
◆変動相場制。兵糧・武器の売買で資金を増やすこともできる。
……と、こんな感じだ。
真田幸村と十勇士の旅路
最初の目的は十勇士を集めること。RPGではわかりやすい展開だろう。仲間がどんとん集まっていく過程は、やはりワクワクするものである。
仲間が集まればできることも増える。戦闘の幅も広がる。じつは序盤が厳しかったりもする。使える兵種が少ないために、相性の悪い敵が出ると対応できないのである。
十勇士はそれぞれに特技を持ち、「めいれい(命令)」のコマンドで実行できる。
軍勢の顔ぶれは以下のとおり。
真田幸村(さなだゆきむら)
主人公。家来は「侍」。
猿飛佐助(さるとびさすけ)
家来は「甲賀忍者」。物資調達の特技を持つ。命じるとしばらく別行動をとる。
望月六郎(もちづくろくろう)
家来は「甲賀忍者」。特技は爆破。関所破りで活躍する。
根津甚八(ねづじんぱち)
家来は「根来忍者」。船を動かせる。
三好静海(みよしせいかい)
なぜか女性、本来は僧体の豪傑のはずだが。家来は「くノ一」。特技は開錠。
三好伊三(みよしいさ)
家来は「僧兵」。怪力の持ち主で、道をふさぐ邪魔な岩を動かしたりできる。
穴山小介(あなやまこすけ)
家来は「槍部隊」。相場を調べる特技を持つ。
海野六郎(うんのろくろう)
家来は「伊賀忍者」。特技は物探し。重要アイテムの入手で活躍。
霧隠才蔵(きりがくれさいぞう)
家来は「伊賀忍者」。特技は情報集め。ゲーム進行のためにヒントを探ってくる。
由利鎌之助(ゆりかまのすけ)
家来は「剣士」。人集めの特技を持つ。兵力の補充に。
筧十蔵(かけいじゅうぞう)
家来は「鉄砲隊」。透視の術を使え、変装を見破る。
特技はストーリー攻略にからんでくる。兵種の相性が重要なこともあり、戦闘や説得でも十勇士それぞれに活躍の場面がある。
いろいろと思い返したり調べたりしてみると、「真田十勇士」という題材がゲームとして面白く落とし込んであるな、という印象を受ける。
使えるキャラクターが11人いるというところも、兵種の相性なんかでしっかり活かされている。「海野六郎が爆弾使い」とか元の設定もうまく取り入れてある。いわゆる「謎解き」の部分でも、キャラの多さが活きていたように思う。
当時、楽しく遊んだ記憶がある。「真田十勇士」については、なんか聞いたことがあるというくらいのものだったけど、ゲームのほうはすごく楽しめた。