猫は身近な存在だ。ふだんの暮らしの中でよく見かける。もちろん、飼っている人も多い。猫と人は絶妙な距離感で接している。それは、たぶん昔からあんまり変わっていないんじゃないか、という気もする。
猫は歴史の中にひょっこりと出てくる。逸話が伝わっていたり、史料の中に見えたり、あるいは文学作品に登場したり……。そんな歴史の中の猫の話を集めた一冊がこれだ。
増補改訂 猫の日本史 猫と日本人がつむいだ千年のものがたり
著/桐野作人・吉門裕 発行/戎光祥出版 2024年
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この本は、2017年出版の『猫の日本史』を増補改訂して再び出されたものである。
著者について
著者の一人は桐野作人(きりのさくじん)氏。歴史作家で、とくに戦国時代と幕末・明治維新を題材にした著作が多い。鹿児島県の出身で、島津氏や薩摩藩に関するものも多い。信頼のおける史料を情報源とし、そこに鋭い考察が加えられている。桐野氏の本は、このブログで記事を作るときにもとてもお世話になっている。
もう一人の著者は吉門裕(よしかどゆたか)氏。本書「あとがき」の中で桐野氏が「吉門さんは国文学が専門だっただけでなく、ペットや動物の生態や歴史について博覧強記といってもよいほど頼れる相方である」と紹介されている。
『増補改訂 猫の日本史』では第二章(戦国時代)を桐野作人氏が担当、第一章(平安時代以前)と第三章(江戸時代以降)を吉門裕が執筆を担当している。
なお、この二人の共著で『愛犬の日本史 柴犬はいつ狆と呼ばれなくなったか』もある。
歴史の中の猫
史料をもとに、いろいろな猫を取り上げている。こんなネタが読めるぞ。
◆帝と猫、宮中の猫
◆『源氏物語』や『枕草子』の中の猫
◆藤原定家と猫
◆西洞院時慶の愛猫家ぶり
◆興福寺の僧が猫に戒名をつける
◆大友宗麟に献上される虎の子とジャコウネコ
◆島津氏と猫、朝鮮出征に連れていかれる
◆近衛前久が島津家に「猫をくれ」とせがむ
◆新納忠元が「牡丹花睡猫心在飛蝶」と壁に書く
◆豊臣秀吉の猫が行方不明になった
◆豪徳寺の招き猫
◆滝沢馬琴と猫
◆山東京山・歌川国芳の『朧月猫の草紙』
◆六義園のあらわれた猫
◆天璋院の愛猫
ネズミを捕ることから、猫はもともと益獣としてもてはやされた。ネズミ捕りの上手い猫を借りてくる、なんてこともあったそうだ。
そして、かわいがる対象でもあった。このあたりの感覚は、昔も今とあまりかわらない印象だ。
興味深かったのは、昔は首輪つけて紐でつないで飼っていたようだ。犬と同じような感じで。つながなくなったのは、戦国時代の頃からのようだ。放し飼いになってからは、よく行方不明になったとも。迷い猫を自分の家につないじゃいけない、みたいな沙汰があったりも。
『枕草子』で清少納言が猫の好みを書いているのも面白いな、と。「猫はうへのかぎり黒くて、腹いと白き」が良い、と。背中が黒くと腹のほうが白い猫が好みなんだとか。

近衛前久(このえさきひさ)が島津義弘(しまづよしひろ)宛に「猫をください」と書状を出している。なんだかかわいらしいエピソードである。
近衛前久は島津義久(よしひさ)から猫を贈られたが、妻と娘にとられてしまったらしい。で、「もう一匹送ってくれ」と島津義弘(宛先は弟のほう)に懇願の書状を出す。「娘がさらに所望しているけどそっちは構わずに、私のほうにください、1匹でいいから」と必死な感じである。
島津家は良い猫を持っていたのだろうか。贈答品としていたのかもしれない。猫を育てていたのか、あるいは交易で得た珍しいものだったのかもしれない。いろいろ気になる。
巻末には付録として「猫追い歴史旅」「全国猫名所めぐり」「関連年表」が入っている。これがすごく良い! ここにも面白い情報が、たっぷりと詰まっている。
