「戦国時代の島津氏に興味がある! でも、ぜんぜん知らないんだよね……」という人は、この本を読むといいと思う。
『かごしま戦国絵巻』
著/岩川拓夫 絵/東雲ののか 出版/南方新社
南方新社ホームページでの作品紹介はこちら。
目次は次のとおり。
序 戦国島津を知る前に
第1章 三州大乱と海
第2章 三州統一の轍
第3章 九州平定の夢
第4章 豊臣政権の嵐
第5章 天下泰平の道
外伝 戦国島津当今錦絵
島津氏の歴史は複雑な事情が絡みあっていて、けっこうわかりにくいのである。で、本書はイラスト(四コマ漫画風)を交えつつ、わかりやすく解説している。
『かごしま戦国絵巻』は2019年~2022年に南日本新聞で連載していたものをもとに、書籍としてまとめられたもの。帯には「戦国の世を楽しく学ぶ!!」とある。これが本書の目的である。小学生高学年くらいから読めることを意識している印象で、全体的に小難しさを感じさせない。説明しすぎず、でも丁寧にしっかり、と。歴史の流れを理解しやすい内容となっている。
そして、漫画的な表現をあわせることで、親しみやすく、イメージもつきやすい。やっぱり、漫画という表現方法は偉大だなとも感じるのである。
書いた人、描いた人
著者は岩川拓夫氏。鹿児島県生まれ。尚古集成館・日置市教育委員会・仙厳園などで学芸員を務めてきた人物で、鹿児島県の歴史に詳しい。鹿児島国際大学非常勤講師や西郷南洲顕彰館専門員なども務める。歴史に関するイベントを企画したり、みずから出演したりも。
絵は東雲ののか氏が担当。鹿児島県鹿屋市生まれのイラストレーター。「ザビエル好き」を公言している。そのためか、『かごしま戦国絵巻』でもイエズス会関連の情報は多めのような気もする。とはいえ、九州の歴史では宣教師の動きがかなり重要だったりもするのだ。
温州ミカンを持っている
表紙は島津義久(しまづよしひさ)・島津義弘(よしひろ)・島津歳久(としひさ)・島津家久(いえひさ)の四兄弟。手には温州ミカン。
こちらについては次のような説明がある。
英語の「satsuma」は温州ミカンを指す言葉。フレッシュな四兄弟にフレッシュなsatsumaを持たせてみました。週刊誌とは関係ありません。 (『かごしま戦国絵巻』カバーより)
戦国島津氏の足跡がわかる
16世紀初頭は「三州大乱」と呼ばれる乱世の中にあり、守護である島津氏は弱体化してしまう。そんなところで分家の島津忠良(ただよし)・島津貴久(たかひさ)が本家にとってかわって、戦国大名化する。周囲の敵との戦いに苦労しながら、なんだかんだで勢力を広げていく、と。そのあと豊臣政権下で苦労し、関ヶ原の戦いを経ても、島津氏は生き残る。そして、江戸時代の薩摩藩へとつながっていく。
登場人物は次のとおり。
戦国島津氏の歴史が、しっかりと要所を抑えながら解説されているのだ。繰り返しになるが、小難しい感じはしない。イラスト(漫画)もギャグを交えつつ、人間くささがあって、親しみやすい感じだ。
下はページの一例。
参考までに。当ブログでも島津氏の歴史を扱っている。こっちは小難しいぞ。
「そんなこともあったのか!」も、たっぷりと
島津氏の周囲のいろいろな逸話にも触れられている。ここでの人間模様にも興味が湧くのである。たとえばこんなことについて。
◆日本人初のキリシタンのヤジローのこと
◆ザビエルの鞭を大切に持っていた新納氏の家老の話
◆島津家久の上京、明智光秀と会ったり織田信長を見かけたり
◆「島津と明が手を組んで豊臣秀吉を倒す」という動きも?
◆島津忠恒が朝鮮で蹴鞠
◆近衛信輔が配流されてきて、薩摩で楽しく暮らしたこと
などなど。
知らなかった人にとっては「へぇ」となるし、知っている人はニヤリとさせられる。そんなところも本書の魅力だ。
下はページの一例。
甲冑姿のイラストも
外伝として「戦国島津当今錦絵」というページがある。こちらは神社に奉納されているものを中心に、甲冑のイラストがしたためられている。島津貴久・島津義久・島津義弘・島津歳久・島津久保・島津忠恒の武者ぶりが拝める。
『かごしま維新伝心』
岩川拓夫氏と東雲ののか氏が手がけた同コンセプトの書籍には『かごしま維新伝心』もある。幕末・維新を題材にしているぞ。こちらも南日本新聞の連載がもとになっている。
目次は次のとおり。
序 幕末維新を知る前に
第1章 幕末にいたるまでの道のり
第2章 斉彬の集成館事業
第3章 国父登場と薩英の衝突
第4章 海外雄飛と新時代の足音
第5章 新時代の産声
外伝 偉人と食
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